山本慶(溺れたエビの検死報告書):
「『溺れたエビ』の全貌に迫る!」

溺れたエビの世界観に影響を与えたもの

――:ご自身の作曲・舞台演出のセンスはどういったものの影響を強く受けていると思われますか。

山本:1stアルバムの「アノマロカリス」に含まれる曲を最初に手掛けた時というのが、結成して2、3年の頃なんです。この頃の曲っていうのはヘヴィーな重々しい雰囲気や、特撮だとかそういうテイストを意識してる部分はありますね。例えば、アストル・ピアソラ(タンゴのバンドネオン奏者/作曲家)とかゴジラのテーマを作った伊福部 昭さんの影響があるかな。世代的に70年代半ば生まれだから、幼少期にウルトラマンや仮面ライダーなど沢山の特撮番組をずっとリアルタイムで見て育った世代なんです。

山本:あと、個人的に影響受けているのは、具体的な名前を出すとアメリカのP-Funk(パーラメント・ファンカデリック)ですね。ジョージ・クリントン率いるファンク集団。ダンス音楽の要素は相当強く影響を受けてます。他には……溺れたエビをそもそも始めようとしたきっかけとして、イギリス発祥のSTOMP(ストンプ)っていうデッキブラシだとかゴミ箱だとかマッチ箱だとか日用品だけでリズムを刻んでいくグループの影響が有りますね。バンドじゃなくていわゆるブロードウェイとかでやるショー……劇団でもないし、いわゆるストリートパフォーマンスに近い感じ。バンドとは違って音楽を使うブロードウェイの作品に影響を受けたのはありますね。そういうのって日本じゃあまり出て来ないじゃないですか。

――:そうですよね。

山本:日本ではグループ音楽って、やっぱりバンドっていう意識が強いと思うんですけど、そういう音楽を使ったパフォーマンス色の強いものをやりたい、作りたいと思って。それが大きなきっかけですね。バンド形態を持っていたとしても、もうちょっと動きというかステージをフルに使ったグループを作りたいなというのは頭にあった。

山本:あとは、まぁ見た目のことですね。円谷作品だとか東映作品などの影響はここにもあると思います。先ほども言ったように、最初期の溺れたエビは特撮の要素の方が強かったので、衣装も何か悪の首領みたいなロングコートや黒スーツ姿だったりとか。いわゆるショッカーみたいなイメージだったんです。でも、そういったイメージと同時に僕の中では、パプアニューギニアやアフリカの顔にペイントや羽根飾りの付いた被り物だとか、儀式に関係しそうな衣装っていうイメージもあって。どちらかといえば後者の方が影響は強いかな?

――:なるほど。世界のナマハゲみたいな感じですかね。

山本:そうですね。

――:すごいカラフルで確かにそういうイメージありますよね。このスケッチでも確か……これが一番今の溺れたエビのイメージに近いですね。

山本:現モデルの初期バージョンですね。個人的には楽曲でもステージングでも、元々明るい方が好きなんですよ。

――:ちなみに、絵ってどこかで勉強されたんですか?

山本:絵自体を専門的に勉強した事はありません。小〜中学生の頃、将来漫画家になりたくてずっと漫画描いてたんですよ。

音楽における比重が変わってきた

山本:ライブ会場に来た時にお客さんにやっぱり思いきり踊ってほしいという欲求が強くあったので、ダンス志向の曲が増えてきたんです。

――:音楽性が変わっていったってことですか?

山本:うーん。音楽性が変わったというか、比重が変わった。曲としては元々ダンサブルな物も最初からやっていたんですけど、少なかった。「アノマロカリス」の曲を作っていた時は、自分の中ではパンクな破壊的なものを作りたい願望の方が先にあって、それをだんだんやり尽したから元々の作曲スタイルに戻ってきた感じです。6〜7年前辺りからダンス向きなものが多くなった感じですね。

3次元的な音楽を追求している

――:僕は1stアルバム5曲目の「アノマロカリス」を聴いて、B級ホラー的な印象を受けたんですね。他のインタビューで山本さんは映画好きな印象を持ったのですが、意識して作られたとかだったりしますか?

山本:その通りですね。特に「アノマロカリス」はそうやと思います。ホラーだけじゃなくてさまざまな映画/劇中BGMっていうのは凄く意識してます。映画は凄く好きでしょっちゅう見てるんですけど、僕が映画を観る時って、必ず音も非常に細かく聴くんです。音楽だけじゃなくて、効果音とかも。

山本:例えば、歩く音や爆発音やビームの発射音とか… 映画館ってサラウンドシステムがあるでしょ? どういう風にパンニング(音の配置や移動)しているのかとか。何処からどう音が動いているのか隅々までチェックするんです。

山本:……で、映画って最近3D映画が多いですけど、実際は3Dじゃない。まぁ、擬似3Dというか視覚的に飛び出て見えるよっていうだけであって、実際は平面じゃないですか。ところが、音に関しては四方八方から音が鳴ってて、画面以上に凄く立体的やと思うんですよ。それを自分たちの音楽にも、もっと取り入れられないかと普段から考えているんです。音楽の中に3次元的な表現を加えられないかと……。まだ僕の中で完成形は無いんですけど……。

――:あぁ、なるほど。

山本:一般の人が音楽を聴く環境って、最近ではほとんどイヤホンだとかカーステレオや家のラジカセみたいなステレオスピーカーがメインじゃないですか? 本当はサラウンドシステムが簡易に、もっともっとコンシューマー用に普及したら面白いなと思っているんです。そしたら音楽にも、もっと情報量が増えて3次元的になって素敵やと僕は思うんです。

山本:例えば、クラシックなど一般的に普及している音楽では五線譜に書く作業の中で、時間軸の情報・音の高低や音量・音色といったものを情報として書きます。西洋音楽としてはバッハやモーツァルトの時代から現代までほとんど変わっていない。でも、エレキギターが普及した以降の音楽……バンド物やヒップホップ、テクノDJ系などの事ですが、音楽の構成要素として音の定位や周波数を時間的に変化させる、例えばディレイリバーブフェイザーフィルターを掛けるだとか、そういったエフェクト情報も沢山加わって、遥かに進化している。

山本:だから音響空間的な要素も単にそれを雰囲気でかけるんじゃなくて、曲のちゃんとした構成内でリバーブがこれぐらいあって、音がここからこういう風に左右に移動するだとか……時間軸・距離感・位置の情報がはっきり入ってるような、もうちょっと3次元的な音楽が作れると思うんです。

――:今、何となくしっくりきました。

山本:これからの音楽がどういうふうに進化して行くかわからないけど、なんだかんだ言って、まだ音楽ってクラシックの頃から2次元的というかモノラルだったり平面的な部分が多いと思うんですよ。作り手も何となく感覚で作ってる限りは永遠に平面的やと思うんですよね。それを僕はもっと立体的にここの端からはギターがこういう風に鳴って、床の方からこのリズムが鳴って……だとかそういう要素をもっと盛り込んでいきたいなと思って僕はやってます。

山本:……確か、一昨年だったかな。大阪の某居酒屋兼ライブハウスみたいなところで、お客さんが限定4、50人程度しか見れないちょっと実験的なライブをやってみたんです。スピーカーをいっぱい持ち込んでね。お客さんの周りに、あの時は6体やったかな?多チャンネルみたいな感じで……。

――:映画館みたいな感じですかね?

山本:そうそう。音をあちこちに動かしながらやるっていうのをちょっとやってみたことも有ったんです。

――:では、次のアルバムでもそういうことを盛り込んでいく予定ですか?

山本:CDとかiTunesとかで聴ける mp3とかaacデータっていうのは結局、そこまでの情報を盛り込めないんですよね。

――:削られちゃいますもんね。

山本:結局、2chの情報ですから。かと言ってホームシアターみたいなスピーカーいっぱい置いて、周りから音が鳴るっていう環境まだそんなにどこの家にもあるわけではないですし。多分それが簡単に普及するとも思えない。本当に映画好きな人とかマニアックな人しかそういった環境は揃えないでしょう。それがもっと普及して、個人レベルでサラウンドの環境が整ってないと音の立体的な感じっていうのは再現できないですし……うーん。

――:それは……そういう音の情報をこだわって録ったとしても流す環境が無いってことですかね?

山本:映画って大迫力で360度からの音を楽しむことが出来るじゃないですか。だから音を3次元的に楽しむって意味では理想的だなと思ってるんです。さっき話したみたいな個人個人の家庭にサラウンドの環境を……っていうのは流石にリアリティーがないとは思いますけど、音楽をより深く楽しむため、これからの音楽のあり方を考えるためのヒントが何かここにあるように僕は思うんですよ。

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