高畑正幸:「文具王20000字インタビュー」 

文具ブームについて(時代その2)

高:自己満足なんだけど、その自己満足があるから、「よし、俺は今日も頑張った。明日も頑張ろう」っていう気分になれる人もいっぱいいるんですよ。前に向かって攻めてるときって、振り返らなくても平気なんだけど、なんか不安なときって、自分がちゃんと頑張れているかどうかっていうのを再確認したりするので、僕らにとって、紙っていうものに書いていくっていうのは、けっこう大事なことだったりするんですね。同じように未来に対して、自己実現っていうのがあって。たとえば料理のスクールに通うとか、ダンススクールに通うとか、なんでもいいんですけど、そういうのって頑張ろうと思ったら、半年とか1年は頑張る。その素敵な自分になるために頑張らなきゃいけないわけです。それが、スパンが長いと、やっぱり不安じゃないですか。

――:そうですね。

高:前向きな時はそうでもないんだけど、そこまで頑張りきれなくて挫折するかも、みたいなことがあったりする。今は出来ないかもしれないから、もうちょっと楽な方がいいなと思った時に、文房具って、自分らしさを表現するのにすごく便利なんだよね。

――:便利?

高:簡単な自己実現というか、素敵な自分っていうのがすぐ出来上がるワケです。ペンケースだったり、筆記具だったり、自分の持ち物をそうやって選んでいって組み合わせていくだけで、なんとなく「〇〇さんってこんな人なのね」って雰囲気っていうが作れるわけですよ。ファッションと同じなんだけど、簡単にそういう自分のイメージを作っていけるってのがまずあります。自己実現が簡単。

――:ふんふん。

高:あと、自分らしさってよく言うじゃないですか。身の丈にあったとか最近よく言うんですけど。自分らしさっていうのを、たとえばマスキングテープで、ペッペッと色んな所に貼って。

――:あーありますよね(笑)

高:商品選びと、あとはマスキングテープをちょっと上手く貼ると、私らしいっていうのが出来た気分になるわけですよ。わぁ簡単、っていうのがあって。たいして努力が必要なく、自分らしくあれるんですね、これは有り難いってこともあるし。それと、せっかく買った高いもの、例えば趣味の物とかって、色々お金使うと思うけど、その趣味の内容によっては、自分の家の中に飾ってあるものとかだったりするかもしれない。それってなかなか友達に見せられないじゃん。自慢できないじゃん? でも、文房具ってのは毎日学校や会社に持って行ったりして、打ち合わせをしたりするときに話をしながら、「そんなノート使ってるのね」って見られるし。それに仮にお金を使ったって言っても、良い万年筆を買ったとか、良いノートを買ったとか、そういうのって、だいたい褒めてくれるんだよ。文房具って、基本前向きなものと捉えられてるので、今お金があんまりない中でも、オモチャとか、プラモデル買ってきましたっていうと、「何やってんの」「無駄遣いするな」って周りから言われて、社会人なんかになると、嫁さんなんかに怒られるとかっていうのがあるんです。でも、おもちゃコレクターよりは、「文房具、最近凝っててさ」って言う人のほうが、なぜか同じお金を使っていても、あんまり責められない。言い訳が立つ。

――:文房具は前向き。

高:かつ、学校とか会社に持って行って、毎日、昼間から自慢できるわけですよ。

――:たしかに!

高:「フィギュア集めてんだけどねー」とかっていうのって、なかなか人に見せる機会もないし、「じゃあ今度遊びに来た時見せてあげるよ」ってなる。でも万年筆やボールペンは、いつも使ってるわけだから、やっぱり元取りやすいっていうか。こういう言い方もなんですけど、せっかく買ったら皆に見せびらかしたいっていうのが普通に毎日できちゃう。

――:お手軽ですね。

高:最後にもう1個あるなーって思ってるのは、今、なんでもデジタルなもの……スマートフォン、タブレット、PCでもいいんですが、色々なものができてきて、デジタル化がかなり進んでいるのに、何で文具なのかっていうものの一つは、情報が積み重なってくるところに対する拠り所っていうのもある。例えば誰かとやり取りしたりするときに、自分の情報をより多く残すんだよ、手書きのものって。メールを普通にもらうよりも、メモでもいいから手書きで何か貰ったほうが嬉しいし。それならシャーペンのほうが嬉しいし、シャーペンよりボールペン、ボールペンより万年筆、万年筆より毛筆みたいなヒエラルキーが存在するんだよ。

――:文房具のヒエラルキー。

高:偉い・偉くないっていうのが存在して。毛筆の手紙とかを、わざわざ頂いたりすると、ちょっと恐縮しちゃう。「わぁ、なんかすごい手紙貰っちゃった」って。それは何が違うかというと、メールで貰った文字って、誰かが代筆していても全然わからないし、コピペされていてもわかんないじゃないですか。

――:キーボードあれば誰でも書けますしね。

高:手書きで書いているっていうのは、少なくともその人が書いたかどうかというのが文字見ればわかるんですよね。その人らしいっていうのが出てくる。そしてシャーペンがボールペンになった時点で、間違えたら書き直せないっていう覚悟があるわけですよ。シャーペンとか、適当に書きながら直したりもできるんだけど。ボールペンから万年筆になると、書いてるときのスピードとか色々なものが反映されるので、文字を見ると急いで書いたかゆっくり書いたかとか、色々がわかっちゃうんですよね。更に毛筆にもなると、毛筆って手の動き自体が三次元なものだし、にじんでいくスピードとかあったりするので、コントロールが難しい筆記具ではあるんだけども、よりその人の雰囲気、その時の気持ちを強く残すことができるんだよね。メッセージが非常に強くなる。実は情報量は同じではなくて、「ありがとう」って5文字書いてあるだけなんだけど、やっぱり、毛筆で「ありがとう」って書いてあると、「なんかすごい感謝してるんだな」っていう雰囲気が伝わるわけです。そういうのが、実はコミュニケーションの上で大事なんだろうなって思うのは、やっぱりこないだの震災とか、皆不安になっている中で、人とのつながりっていうのが見直されたりとかがあったりする。手書きのそういう良さってあったりするのかな、って考えると、どれをとっても文房具有利じゃんということ。

――:確かにその通りですね。

高:うん。どれが一番の要因なのかはわからないけど、どれも全体的に世の中の暗い感じを反映してるんだよね(笑)

――:暗い時代だからの文房具ブーム(笑)

高:景気がすごい良くなっててきたら、もっとあっけらかんと、お金は儲かるし、レジャーやその他にも楽しいことがいっぱいあるし、とかいう時代がきて、こんなのではなくなるのかもしれないけどね。だからか、景気のいい時は文房具あんまり流行ってないですね。バブルの頃って別に文房具ってたいして流行ってなくって、それより以前は一回流行ってますけど。

――:景気悪い時のほうが流行りやすいっていうのがあるってことですよね?

高:まぁ、あるってことじゃないかな。今流行ってる原因っていうのをいろいろ考えると、別に、皆文房具がすごく好きになったとか、皆が文房具を好きだった、ということではなくって、「ま、しょうがないから文房具でも買っとく?」みたいな、しょうがないから文房具で自己主張するって感じってのはあるのかなと思うね。

――:なるほど。自己実現の方法が……自己実現の値段が降りてきたって感じですかね。

高:そうそう。値段も降りてきてるし。なんかちょうどいい、皆に褒めて貰える、皆に見せびらかせる。そういうことが、今の世の中的にはいいのかなって。

――:なるほど。そう言われると、納得しかできないですね。

高:ブームに関して言うと、アレコレあるんだけど、どれも文具に有利かな。文具に不利なことがあんまりないんですよ。だから、僕はけっこう文具ファンをずっとやってて非常に得なんですよ。

――:経済的にも(笑)

高:ただ、ちょっとね。たとえば、最近不思議な話なんだけど、雑誌っていうのは、基本的には、欲しいものの値段より安いものしか売れないんですよ。普通は。

――:ほう。欲しいものの値段より安い?

高:雑誌を作るときの、本来ならば鉄則なんですよ。フェラーリとかポルシェを買おうとしてる人って、車雑誌を普通に買うわけですよ。だって、8000万とか1億するかもしれない車を買おうとしてとき、どれがいいかなーなんて思ってるときには、500円や1000円の雑誌を買ってくるのなんて当たり前の話なわけでしょ。そこで情報を得て、どっちにしようかなあとか考えるわけじゃないですか。だったら、より詳しい情報が入ってる方がいい。たとえば、自動車、カメラ、ファッションなんかでも。やっぱりそれって、買おうとしてるものよりも安く情報が手に入るから、買う前にいろんな情報を吟味して選ぶっていうのがあるじゃないですか。

――:確かにその通りですね。

高:でも文房具って変じゃないですか。文房具のムックのほうが高い時ありません?

――:あります、1000円くらい普通にします。

高:でも、1000円の雑誌を開いて載っている「あ、これ素敵だな」っていう100円のペンを買いに行くってことになるわけです。

――:そうですね。やってますね、自分。

高:なりますよね。これって本当は、今までだと難しいことだったんですよ。情報誌っていうのは、事前に情報を得るためのものだから、買おうとしてるものより安かったらあんまり成り立たないってよく言われてたんですけど、でも、文房具はそうでもない。ということは、文房具ってのはコンテンツとして面白がられてる。

――:うん、たしかに。

高:だから、文房具そのものを実用品として考えてるとしたら、なかなかないんですよ。ただ、文房具をそういうコンテンツ、あるいはエンターテインメントとして文房具を考えてるっていう前提があるから、それが成り立つって見たほうがいい気がするんですよね。

――:確かにそうですね。

高:だって、おいしいお店の特集とかやってるのって、だいたい寿司屋とかちょっと高いものの話はいっぱいあるじゃん。おいしいレストランの話とかって、本になるじゃん。

――:なりますね。

高:けどさ、ああいう牛丼チェーンの話とかっていうのは、経営者の話とかっていうのは出るよ。

――:あーはいはい。

高:けど、牛丼チェーンどこのメニューが美味しくて、っていう話ってのは、まぁ出ないよね。

――:そうですねぇ。僕も見たことないですね(笑)

高:あんまないでしょ。それは多分、雑誌より値段が安いからなんだよね。そうすると、単純に購買以前に得たい情報以上のものが、情報誌に求められているんだよっていう風に僕は思うんですよ。

――:なるほど。そうですね。

高:そう考えると、今の文具ブームっていうのは、「文具の情報」とか「文具のコンテンツ」ブームとも言えるけども、文具そのものがどのぐらいブームかというと、それが混在してるからわからないっていうか。雑誌を読むだけ読んで、文房具を買わない人がいたりするんだよね。そういうことも起こりうる。

――:そういう人いますね(笑)

高:読んで満足しちゃうっていう部分もある。それは、読む情報として成り立ってるからなんだよね。成立しちゃってるっていうことですよね。

――:ある意味小説的な楽しみ方というか。中身を消費する感じですよね。

高:「あー。こんな文房具あるんだー。へぇ」って言って、そこで納得するみたいな。そういう楽しみ方ができるくらい、文房具っていうのが、コンテンツとして成立しているんですよっていうのが、雑誌に関してはあったりするんですね。

――:なんでコンテンツとして成立するようになったんでしょうかね。

高:どうなんですかね。そういうところはやっぱり、そのブームがそういう風な方向になってきてるところと関係はあると思うんですけど。たまたまムックが……2010年の11月だったかな、「すごい文房具」っていう雑誌が出て。それが出てからものすごい売れるってことがわかって、バンバン出てるんです。でもやっぱり、コンテンツとして成立しているっていうのは、自分たちの身近な所で皆が共感できるっていうところもあるし。そういうのもやっぱり今の時代としては丁度良かったんじゃないのかな、っていう風には思うけどね。皆なんか、全然関係のない話って、乗りにくいじゃん。自分には全く関係のない話っていうのは乗りにくくて。まぁ、なんていうのかな。

――:他人と共有できる。

高:共有できるネタとしては、まぁ皆使えるからね。そういうのもあるんで。

――:そうですね。今ボールペンを知らない人はいないですもんね。

高:うん。で、そこでウンチクが語れるしね。買ってきて皆に見せられるから。やっぱり自分が持ってるものとかをもう一回見なおせるみたいな部分が。

――:なるほど。コンテンツとしてのブームが確実にきてますねってことですよね。

高:きてるんじゃないのかなと思うけど。

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