高畑正幸:「文具王20000字インタビュー」 

文具ブームについて(時代その1)

――:次に、文具ブームについて聞きたいのですが、いろんな雑誌などに「文具ブームが来ている」みたいな話が書かれてありまして。実際のところ、きていると思いますか?

高:きていると言えば、きていると思いますよ。

――:きているといえば。

高:っていうか、きているって言ってもいいと思います。特に文具ブームというのが、ムックだったり雑誌だったり、あとはテレビとかで文房具の特集が出てきたりとか、そういうメディア中心に、個人に対する情報としてのブームってのは確かにあると思います。でも文房具自体の業界の売上は、あまり上がってなくて、むしろ下がっているんです。それは実用としての文房具という意味で、昔は湯水のように使って、あまり使わなくてもファイルとか交換しないで捨てちゃうみたいなこと、結構やっていたんですけど、今は大きな企業とか無駄に文房具を使うのは減らしましょうということで、最近はちゃんと大事に使うようになっただけなんです。

――:(笑)

高:あとはオフィスとかで事務用品といわれる家具だったり、オフィス用の椅子だったり机だったりも、そんなに買い換える必要はないですから。最近はあまり換えない。なので文具業界自体の売上は若干下がっているって言われてるんです。けど、個人に対する情報露出っていう部分で考えると、ものすごい勢いで増えてると言っても間違いではないと思います。

――:ということは、組織で使ってたものは今は減ってきてはいるけども、個人的なものは増えてると。

高:個人的な興味としての文房具っていうのは、あると。実際テレビとか雑誌の人たちもよく言うんですが、今、文具の特集は、比較的視聴率が高いとか、比較的雑誌が売れるというところがあるんです。こういった本がいっぱい出るってことは、そういうネタで本を作ると売れるってことですよね。

――:確かに、まさにその通りですね。

高:なので、今はそういう本が売れるような環境ですよ、っていうのがわかりやすいですね。

――:なるほど。あと、文具ブームって、文具全体がブームになるというよりも、いつも特定の商品がブームになるっていうイメージがありまして。たとえばフリクションとか。特定の商品が、爆発的に売れて、それに引っ張られて周りの文具も売れていく感じが、ちょっとしてまして。そういうのって、本当に「文具ブーム」なのかな? って思うところがあります。

高:それは、「文具全体がブームなんじゃなくって、たまたまフリクションだけが売れてるんじゃないの?」って話。

――:そうですね。「消せるボールペンがとても売れてるよ!」ってだけであって、文具全体では、そうでもないんじゃないのかなって思います。その辺りはどうですか?

高:まぁ、そういうすごく売れる商品がその中にあるっていうのは、たしかに間違いではなくて。商品間に格差はすごくあって、売れる商品とそうでない商品っていうのはハッキリしてます。全体的に爆発的に売れる商品ってのは、ちょいちょいあるんですね。それこそフリクションであったり、ジェットストリームっていうボールペンであったり、最近だとフィットカットカーブっていうハサミだったりとか。他になかった切り口の面白いものっていうものが出てきて、売れるってことが実際ありますよね。

――:はい。その通りですね。

高:ただそれだけでは説明しきれないというか、それがたまたま売れてるだけで、ブームが出来上がっているかというと、僕はそうでもないように思います。文具ブームが何なのか、というのは、実は複合的な要因があると思っているんです。非常に多くの要因がたまたま去年・今年あたりの世の中の状況に、ぴったりハマっていると思っています。

――:大きな話ですね。

高:そう、大きな話。それで要因がいくつかあるんですけど。まず1個目。さっき言った、会社が文房具を買いたくなくなってきた。無駄には使われたくなくなってきた。今までだったら総務でいっぱい買ってきて、それを皆に配ってるから、「好きなだけ取ってっていいよ」とか言う。そこに自分で使う分以外のものもガバッと持っていくみたいなお父さんがいて、そういうのがけっこう当たり前にできていたんですけど、最近はなくなってきた。なので、ブームは「文具は自前でなんとかしなさい」みたいな部分からできてきた。というのが1つ。

――:なるほど。

高:そういう風になってくると、何でもいいから会社にあるやつで良かった部分が、自分で買わなきゃいけなくなる。すると「どれを買うかな」と、ちょっと文房具を見るようになる。どうせ買うんだったら、あまりしょうもないのも買いたくないし、せいぜい何100円の話だし。じゃあ「ちょっとおもしろいのがいいな」とか「かっこいいのがいいな」っていうとこはあるんじゃないの? ってとことで、さらに注目されるってのが1個。

――:ふむふむ。

高:それから世の中、景気が悪いです。例えば中学生には製図用シャーペンが欲しいけど高くて買えない。それが大学生になって買えるようになった、金回りがよくなった。でも、製図用のシャーペンとかラミーの万年筆くらいは買えるようになったけど、まだまだそこ止まりなわけですよ。

――:そうですね。

高:これがね、好きなのが文房具じゃなくて車です、とかなら「子供の頃は買えなかったけど、今は車を8台くらい持ってます」とか、「こないだ買ったフェラーリがなかなか良くてね」みたいな話をするのは、なかなか難しいわけです。これは大人になってもそうで、昔に比べればかなり厳しくて、色んなものを買う世代である人たち、いま仕事をしてる人たちが、お金に余裕がないということがあります。バブルの頃なんかは、冗談抜きでタクシー止めるのにお金をヒラヒラさせて、みたいなのがあったくらいなんですよね。そういう無茶苦茶な話もあったり、ブランド物とかをポンポン買ったりしてた時代みたいなのがあるんです。

――:凄いですね(笑)

高:そう。今はどちらかというと、そういう余裕がありません。たとえば車を買うんだったら100万くらいの車。買ってもね、あんまり人に自慢できないんですよ。普通のファミリーカー。

――:そうですね……、軽とかになりますもんね。

高:ま、悪くはないけど。「あ、車買えてよかったね」なんですよ。500~600万の車を買うと「うっわ、すごい車買ったね」って話になるじゃないですか。

――:確実になりますね。

高:なりますよね。で、考えると、文房具って安くってね。たとえばノート。僕たった今、超高級ノートを適当に使ってるんですよ。

――:適当に(笑)

高:こんな雑にノートを使っていると、「お前、そんな高いノートをそんな使い方して」って言われるんだけども、これで2000円ぐらいなのね。

――:確かに。

高:これ以上高いノートって、手すきの和紙で出来てます、とか、表紙がすごいです、とかなるじゃない。万年筆も、ラミーとか比較的安くてかっこいいので、良いんですけど。高い万年筆とか言っても、3万~5万くらい出すと、まぁまぁ良いのが買えて、それ以上高いものっていうのはボディが高いけど、書き味は大して上がらないんですよ。

――:へえ。

高:ペン先の金の含有量とか製法の問題なので。10万くらいまでは確かに価格差っていうのはあるんですけど、それ以上のものって、そんなにない。たとえば「世界で最も書きやすい」って言われているボールペンのジェットストリームが200円くらいで買えちゃうわけですよ。多色で買って1000円くらいで買えちゃう。となると、そのジャンルの中で良いものが、安く、しかも褒められるわけじゃないですか。高級ノート使ってるだけで「良いの使ってるね」って言われるけど、2000円くらいって言ったら、それこそ1回コンパに行ったらなくなっちゃうような値段なわけです。意外とコストパフォーマンスが高い。なので、自分が出せるお金の中でも、満足度の高い良い物を買えるんだよね。

――:なるほど。

高:5万円ぐらい使って文房具を買うと、かなり良い物を揃えられるみたいな。

――:使い切るのがちょっと難しいくらいですもんね。

高:ですよね。でも、ファッション関係のものだったら、ジャケット1枚買っただけでなくなっちゃう。それも5万円だったら「うーん、そんなものなの?」っていう感じだし。時計だと、5万円だったら「いや、もうちょっと足して良いの買いたいな」とか思っちゃうくらいの値段なわけです。でも文房具だったら「アレとコレと、コレも買えるかな」みたいな話になっちゃう。それくらいなので、景気悪くてお金ない、その中でも、お金をあんまりかけてなくても、誰もが認める良いものが買える、モレスキンもそうだし、ラミーもそうだし、そういうものがちゃんと買えるっていうのも良いところ。

――:モノ自体の単価というか。

高:価格帯ですね。だから、無理して高いランクの、高い価格帯の商品の安いものを買うよりは、安い価格帯の良いものを買ったほうが、いい仕事をしてる感じはするんで、満足度が高い。それからあとは、今は景気悪くて未来が暗いわけです。見通せないわけですね。学生の皆さんは卒業してからどんな仕事をしたいとかあると思うんですが、会社入って仕事をある程度やってると、この先が見えちゃう部分があって。昔はそれなりに頑張ってて、景気の良い時って、ガンガン頑張れば、上へどこまでもいけそうな雰囲気の時代でもある。今だと、ちょっと頑張っても、世の中的に、なかなか大金持ちになるのは難しいかなっていう雰囲気で。

――:そうかもしれません。

高:そうなったときに、手帳って、未来に向かってる手帳と、過去に向かってる手帳があって。

――:ほうほう。

高:景気良い時とか、ガンガン攻めてる時に売れるのは、フランクリン・プランナーとか、野口悠紀雄の超整理手帳とか。どちらかというと、未来に理想の自分を掲げて、それになるための手帳。10年後に「文房具の10店舗持ってるお店のオーナーになっている」とかいう夢を持っていたとしたら、「じゃあ5年後までに開業してないとダメだよね。だから1店舗は5年目かな」とか、「そしたら3年目までに、これくらいの資金を集めておかなきゃいけなくて」とか。そういうのをブレイクダウンをしてきて、今日はじゃあ何をするのっていったときに、今日1日を潰していきながら、未来を目指す手帳なのね。それはスケジュールを自分で組み立てていく手帳。

――:はい。

高:それとは反対に、今流行ってる手帳って、モレスキンだったりとか、ほぼ日手帳だったり、トラベラーズノートだったりと、どちらかといえば「ライフログ」と呼ばれてます。自分たちが今やってきたことを、絵日記、日記みたいな感じで書いていって、それをきっちり埋めていく。毎日、自分が今日充実していたことを再確認する手帳なんだよね。現在とか過去を慈しむための手帳っていうのと、未来を切り開くための手帳ってのは別物で、今どちらかというと後者なの。

――:なるほど。面白いですね。

高:そういうとき、別にスマホに日記書いたって構わないんだけど、紙に書いてあったほうが、手帳が分厚くなっていって、汚れてどんどん分厚くなった手帳を見ると、「あー、今年1年がんばった」っていうのが感じられるわけです。

――:その通りですね。

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