宇多丸:
「ライムスターの持つ親しみやすさとは?」

カオスの中にいる側

――:ダーティーサイエンスについてお聞きしたいんですが、前作は日常的なテーマが主だったと思うのですが、今回はヒップホップらしさを主なテーマとして歌いたかったと言う事ですか?

宇多丸:ヒップホップらしさもあるけど……。どっちかと言うと震災かな。いや震災だけでもないか。〝今〟っていうか。それこそがヒップホップらしさではあるんだけど。今の話をしている今の歌だなっていうのがビビットに感じられるような。パーティーの歌だけど、今だったら風営法の話をしないと!とかさ。なんとなく大震災以降の陰を落としてる感じというか。それをビビットに反映させるのがヒップホップらしさでもあるだろうということかな。

――:その陰というか禍々しさがジャケットに表れていますが、このようなジャケットにした狙いというのは?

宇:アートワークは中代拓也君っていう人に『ONCE AGAIN』以降はずっとお願いしてて。最初に中代君が持ってきたジャケは全然真逆で、ものすごいシンプルだったんだよね。でも今回はこういう感じじゃないっていうリクエストを出して、もっとカオスでダーティーな感じを出してほしいっていうのがあって、それで再プレゼンで出てきたのがこれで、他に数種類あったんだけどね。再オーダーするときにカオスだとか言ってたんだけど、中代君がおもしろい質問をしてきて「そのカオスな状況に対してライムスターは俯瞰して明確な答えを出すという立場なのか、それともカオスの中にいる側なのかどっちですか?」って言われて、鋭いところを突かれたなっていう。今回のアルバムでのお前らの立場はどうなんだ!ってズバッときたっていう。それで「えーっと……カオスの中……に居る方だと思い……ます。」みたいな回答をして(笑)。そしたらこれが挙がってきたという感じですかね。

――:今回のジャケットの蛸を選んだという点で過去の『マニフェスト』事件を考えられたとお聞きしたんですが?

宇:それはもう「次も狙うっしょ!」っていうことで、あいつら全然懲りてねぇ!って言わせてぇなっていう。これはでも中代君に頼んでいる理由そのものでもあるんだけど、オシャレだよねでスルーされてしまうものよりかは2度見しちゃうものっていうか。それはさっきから僕らの言っているおもしろさの部分で、笑わせるだけじゃなくて何か引っかかりのあることっていうか。ありえないんだけど!って思われるようなこと。それはセンスが良いと思われることよりも全然良いっていうか。それで中代君はデザイナーなんだけどセンスが悪いと思われることとか、馬鹿だと思われることとかを怖がってないから、だから好きだし信頼して頼んでるっていう感じかな。それで本当今回も……やらかしてくれました(笑)。

――:楽曲の方で、今までのアルバムよりもDさんから始まる曲が多いんですけど、これはDさんが主導で作られたということですか?

宇:うん。……これは俺が歌詞を書くのが遅かったからだよね(笑)。まあでもマニフェスト以降はDが総合プロデューサーっていう感じだし。フックとかを作るのも上手いからさ、Dが先に入れていってコンセプトを固めていくっていうパターンが今回は特に多かったかな。まあ遅かったね今回は俺が(笑)。『サバイバー』ぐらいかなサビをバシッと作ったのは。

――:今回は楽曲の中でもツボイさんの曲が多いと思うんですが今回のテーマにツボイさんの音が合致したからということですか?

宇:そうですね。合致した人にオファーをかけていっぱいトラックをもらってその中から選ばしてもらうっていう感じなんだけど。ツボイ君から最初に貰ったトラックが、要は俺らのリクエストが80年代、90年代ヒップホップの荒々しさを今風にって感じで、口でいうのは簡単だけどそれがどんなバランスかわかんないでオファーを出してるわけで、古臭く聞こえちゃ元も子もないからどうなんだろうなっていう感じだったんだけど、ツボイ君のトラック集が来たときにこれだ!ってなって。それで必然的にこれもやりたいあれもやりたいってなるとツボイ君だらけになったという感じですかね。このアルバムのキーに後々なっていく曲ばかりだったので、ホントにツボイ君さまさまっていう感じかな。

――:ツボイさんの曲が多いということが『ドサンピンブルース』で〝キエるマキュウ〟を呼ぶ事に繋がったんですか?

宇:ツボイ君からっていうよりは侍モノっていうコンセプトはあるんだけど、そのままだと小さくまとまりすぎちゃうっていうのがあって、俺達だけだとすごいかっちりして、計算づくなんだよね。だから謎の部分というか事故待ちでマキュウが入ることで世界観の広がりが出来るっていう。こじんまりしないんですよね。だから最近フューチャリングをあまりしてないのは、曲のコンセプトががっちりあるから、それ以外の要素でぶれるのが嫌だったっていうのがあって。ただこの曲に関してはもっと壊してほしくて、でも彼らも自分たちの役割がよくわかってるから、見事にやってのけてくれて。それこそ俺はこういう時代物の歌詞はどうしようかなっていう感じで出来なかったんだけど、マキュウの歌詞が入ることで気が楽になって、あっというまに書けたね。

――:社会の陰が落としこまれた歌詞が多いと思うのですが、これは今ライムスターが歌わなければいけないという感じですか?

宇:うーん。別に僕らは社会派グループっていうわけでもないし。まあでもそれは日常感覚というか、最近気になることはあるかとか、世の中に対してどう思っているっていうとこから話を始めていくから、それで「ああいう風潮頭にくるんだよ!」とかいう話から始めてるからなのかな。あとはオッサンになったのかな?小言になってるのかもしんないですね(笑)。

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