宇多丸(RHYMESTAR):
「ライムスターの持つ親しみやすさとは?」

ヒップホップ・日本語ラップには独特の近寄りがたさ、恐さが未だ存在する。しかしその日本語ラップシーンの最前線に立ち続けながらも、親しみやすさを持つグループが存在する。彼らの名はライムスター。その中でもラジオ、映画批評、アイドルファンとしてなど多方面で活動する宇多丸さんに、ライムスターが親しみやすい理由を、彼の詩に対する考えやリリースされたニューアルバム『ダーティーサイエンス』についてなどと共に取材した。

2013年2月

取材・文/谷口凌兵 協力/藤木涼介・中川颯太

宇多丸さん
  • 宇多丸(うたまる)
  • 本名:佐々木士郎(ササキシロウ)
  • 生年月日:1969年5月22日
  • 出身:(ココ)東京
  • 血液型:B
  • 身長:180cmぐらい
  • 座右の銘:アイドルだって人間だ
  • 趣味:テレビ観賞、DVD&書籍購入
  • 好きなヒップホップ・アルバム:『Mellow Yellow baby』
  • ヒップホップにハマったきっかけ:いとうせいこう氏や近田春夫氏の理論に説得されたという感じ
  • 音楽活動を始めた経緯:なりゆき。もし日本語ラップが存在しなければ自分では絶対やっていない

RHYMESTER are:宇多丸(Rap)、Muumy-D(マボロシ、Mr,Drunk:Rap/Produce)、DJ JIN(breakthrough:DJ/Produce)からなるヒップホップ・グループ。別名「キング・オブ・ステージ」。

1989年、グループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年、アルバム『俺に言わせりゃ』でインディーズ・デビュー。1998年、シングル『B-BOYイズム』、続く1999年3rd.アルバム『リスペクト』のヒットで日本のヒップホップ・シーンを代表する存在に。2001年、活動の場をメジャーへと移し、4th.アルバム『ウワサの真相』リリース。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成0させるも、これを最後にグループ活動を休止した。宇多丸は2009年に、自身のラジオ番組での活動が認められ『第46回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」』を受賞するなど、様々なメディアで活動中。2009年10月、シングル「ONCE AGAIN」で本格活動再開。2013年1月30日、10th.アルバム「ダーティーサイエンス」をリリース。

ラッパーらしさを演じる方がおかしくないか?

――:一般的に想像されるギャングスタ的なイメージにライムスターさんは当てはまらないように思えますが、意識されていますか?

宇多丸:僕らでさえ番組とかに行くともっと怖い人だと思ったとか言われて、例えば「敬語使うんですね!」とか。どういうイメージなんだよ!ていう感じで。僕の見た目が強面だからっていうのもあるんだけど、そういう現場にいって普通に話すだけでもプラスだったりして。僕らは意識するというよりも元々こういうタイプの人間だから・・・ですかね。寧ろ90年代ぐらいってシーンがハードコアだったりして、僕らも認められない事に怒りを抱えているような時期で、その頃は寧ろ自分が所謂ラッパー的なパーソナリティじゃないことに結構悩んでましたね。暴力的でもないし、不良でもないし、でもそれはラッパーらしさを演じる方がおかしくないか?というところにたどりついたのはもうちょっと後ですよね。

――:具体的にはいつ頃?

宇:それこそ宇多丸って名乗りだしたぐらいですよね。2000年代頭ぐらいとか。自分が普段話してたりする事の面白味が自分のラップに反映されてないなと思って、それじゃ駄目だよなと思って少しずつシフトチェンジしていった感じですかね。出来るだけラッパーらしさから逸脱するような活動をしたりとか。例えばアイドル好きを公言したりとか。それは本当に好きでわざとやってるわけではないんだけど、あえて〝らしさ〟と反することをやりたいという時期もありましたね。あとライムスターとして番組に出た時は出来るだけ面白く。面白くって言っても笑わせるっていうだけじゃなくて、出来るだけエンターテイメントにするっていうかね。その場にそぐった感じで。

――:面白くという点などもそうなのかもしれませんが、同じくシーンの最前線にいるキングギドラの皆さんとは同じテーマを楽曲にしても視点が違ったりすると思います。その点についてどう思っていますか?

宇:うーん。キングギドラはやっぱりUSのヒップホップっていうのが強烈な理想として在る、もちろん僕らも学ぶし理想ではあるんだけど、そのUSのヒップホップの在り方を直接日本にトレースしてるグループだよね、キングギドラは。僕らはどっちかと言うとUSのヒップホップも押さえるし学ぶし勉強するけど、日本人のヒップホップの在り方はUSのそれとは違うのではないかという考え方で。だからそれが活動の差になるんじゃないかな?

――:震災後の『アポカリプスナウ』と『フラッシュバック、夏。』もそういった点からの違いですか?

宇:震災後どういう曲を出すかっていうところで、直接的に震災後の何かを歌うのに関して僕らは躊躇があって、状況が大変だっていうのを歌にしなくても、もうわかっていることだっていうか。その上で現実に俺らは東京にいて放射能だって騒いでるけど、福島とかその周りにはもっと危険に晒されている人たちもいるのに、こっちがパニックになるのは申し訳ないというか。あまり状況を煽るようなのは出したくなかった。もちろんフットワーク軽く状況を歌うっていうのもヒップホップらしさではあるから、それはそれでありだとも思うんだけど、俺達自身は踏み越えたくない一線だったっていう感じかな。

――:先ほどの面白くという辺りやヒップホップの内輪的な言葉をあまり使わないようにしているという事を以前、仰っていましたが、そのことが身近さの演出になっていると思うのですが?

宇:特に『マニフェスト』というアルバム以降、元々その傾向はあったんだけど、平易な表現を心掛けるようにはしてますよね。僕らは必ず録った時にリリックが聞き取れるかどうかというか、日本語として意味をなした文として入ってくるかどうかをいつもチェックしていて、実際に紙に書いてみたら良さそうでもやってみたらそうは聞こえないとか。これは不思議で音の組合せとかで濁音じゃないところが濁音に聞こえたりとか。あるいは同音異義語が日本語は多いから上手く伝わんないなとか。そこは直すようにというのは心掛けてますね。ただヒップホップスラングとかは作品ごとに違うかな。特に今回とかはヒップホップ感を大事にしたから、よくわかんないマニアックな比喩とかも平気で入れるっていう。それはやっぱり作品ごとに違いますね。

――:そういった点で今回はヒップホップの現場的な曲が多いと思うんですが、前作のように日常的な場面を歌うことも多いと思います。これは日常を歌いたいという事だったんですか?

宇:ヒップホップって基本、日常を歌うものだと思うけどね。ただしそれがドラマチックなギャングスタライフじゃなくても作品として成立するという自信がようやく・・・ってことかな。でも結構最初からそうだよね、俺らはわりと身近というか。日本人の日本人による日本人のためのヒップホップっていうのを目指しているから、当然トピックは僕らが日常的に感じるものになるっていう。ただ今だったらさ、僕らが始めた20年以上前だとドラッグディーラーの事を歌ったら嘘くさく日本社会でそんなことないでしょってツッコまれたかもしれないけど、今の若い子の中では葉っぱを売ってなんかやってますとか、犯罪に手を染めてますっていう子のところまでヒップホップが届いてるというか、日本が貧しくなってきていることもあって、そこも日常になってきちゃってますよね。だからUSのヒップホップに近いことを歌っても嘘くさくはない状況にはなってきているよね。

――:身近な感じがするという点で、『ウワサの伴奏』などで他ジャンルの方ともコラボするということも理由だと思うのですが、なぜ共演を?

宇:『ウワサの伴奏』までは僕らもあまりオープンじゃないイメージが持たれていて、でも『伴奏』をやったらそれはアリなんだっていうのが伝わって、色んなバンドと対バンしたりとか色んな機会が増えたし、ロックフェスに出るようになったって感じかな。でも向こうのラッパーとかは色んな人と絡んだりするわけで、別に嫌がっていたわけじゃなくて、ただ俺らは多いですよね。なんでだろうな?・・・やっぱり恐くないとか(笑)、話通じそうっていうあたりとかになるのかな。

――:そこから他ジャンルファンをヒップホップファンにするというようなことも?

宇:それが出来ればいいけどね。なかなか抵抗がある人はいるから。でもヒップホップ臭さの部分はあまり消してもいけないし、だからヒップホップのファンというよりはライムスターのファンが増えていく傾向というのがあると思うけど。それはそれで嬉しいことでもあり、でも歯がゆい部分でもあって、他のラップは苦手だけどライムスターは好きって言われると、やっぱり曲でも言ってるけど、嬉しいのは嬉しいけど、やっぱり俺はヒップホップ好きだしそういうこと言われるとカチンとくるんですけど!みたいな部分はあるよね。

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